「デザイン工学」
スタンフォード大学コンサルティング教授の福田収一氏が著した、放送大学のテキストです。
「デザイン」と言えば、どうしても「ファッションデザイン」「グラフィックデザイン」「プロダクトデザイン」
等を連想して、ついつい「何となく華やかなもの」を想像してしまうのですが、厳密に言うと
「デザイン=設計」
です。
(「デザインパターン」の「デザイン」も「設計」と捉えると分かりやすいかと…)
本書は、
「なぜ人間は設計(=デザイン)するのか?」
から始まっているのですが、最初に、20世紀(=昔)と21世紀(=今)の対比が行われていて、
- 20世紀
- 鉄道の時代(線形社会)
- 人々の目的が明白
- 効率的な目標達成が重要
- 設計の対象は「モノ」
とされていました。
(IT業界におけるキャリア「デザイン」も多様化していて、悩みます…)
そしてそこから、マズローの
「人間の欲求ピラミッド」
が紹介され、
「自己実現が、最大の人間の欲求である」
と述べられて、
「設計=自己実現」
という結論が導かれています(壮大だ…)。
人が、芸術やゲーム、スポーツにハマるのも、自分の夢を実現(=自己実現)しているから
なのだそうです。
(ゲームはともかく、芸術やスポーツは非常によく分かります)
合間合間には、様々な「設計」が紹介されています。
- チーム設計(ユングの性格論やMBTIと絡めて論じられていました)
- サービス設計
- 基本設計(機能と「かたち」の決定)と詳細設計(「かたち」に対応する寸法)
その他、五感とデザインの関係や、WEB2.0についても書かれていました。
また、
デザインにおいては、顧客の意図を理解することが必要
との切り出しから、「意図理解」についてもページが割かれており、デザインにおける
コミュニケーションの重要さが説かれていました。
デザインでコミュニケーションが出てくるとは想像していませんでしたが、例えば、
システム開発における「要件定義」の重要性を考えてみれば、ここで言及しておくべき
事項ですよね…。
その中で、
コミュニケーション技術とは、自分の考えを相手に理解させることではなく、
相手の考えを理解することである
と書かれていましたが、まさしくその通りですよね〜
「よく喋る人=コミュニケーション能力が高い」
と思っている方が少なからずいらっしゃるので…
そう考えると、本当のコミュニケーション技術を持っている人って皆無だなぁ(´・ω・`)
さて。
本書の最後のほうで、
「設計=自己実現」
について触れられているのですが、そこで
- 「道具」を作ること。
- 「道具を作る」こと。
の違いが挙げられていました。
前者は「誰かが設計した道具を、別の誰かが作ること」だそうです。
産業革命で専門化が進んで、設計と生産が分離し、
「設計⇒生産⇒使用」
という流れが産まれたことを表しています。
一方、後者は
- 設計
- 生産
- 使用⇒不具合があれば1に戻る
というループが行われることを表しており、太古の
「設計と生産は同一のもの」
ということを意味しているそうです。
さらに、
目標を決定し、目標実現の計画を立て、製品を実現してゆく活動すべてが設計である。
という一文も記されており、これらはIT業界の開発手法に例えるならば、
- 前者=ウォーターフォール
- 後者=スパイラル
といったところでしょうか。
また、後者については、
「コードそのものが設計書」
という考え方とすごくマッチしているようにも思え、非常に興味深かったです。
SEとプログラマの分類については頻繁に話題になり、
- SE=設計する人(仕様を設計書に落とす)
- PG=開発する人(SEが作った設計書を元にコーディング)
と定義されたりしますが、この分類には以前から違和感を覚えていました。
今回、本書を読んだことで、この感覚が間違っていなかったことに気付きました。